【世界独航記ノ參】
実をいうと、オセアニア大陸に新港はない可能性も感じていた。地理的な拡張はいつも小出しなのが運営サイドの手法だし、世界周航へ出るより先にワンガヌイの存在を大投資戦によって告知され、そのワンガヌイで次の寄港地はマニラとされたから、余計に望み薄と思えた面も強い。
■トレス海峡雑感
それだけにオセアニア大陸の東岸沖を北上し、北端のトレス海峡を通過してのちカカドゥの港が視認されたときなどは、まさしく“発見”の気分を味わえて楽しかった。これぞ探検的航海の醍醐味という感じだったが、と同時に‘大航海時代online’の世界では今回の拡張パックでこの大陸の位置修正が特に為されなかったことも発見(確認)し、こちらは少し微妙な気がしないでもない。
たとえばジャカルタやスラバヤ、ディリなどのある小スンダ列島とオセアニア大陸は現実には小海を挟み隣接していて、ディリからカカドゥまでの航行距離は実のところディリから香料諸島までのそれと大差ない。ゲーム内では前者が後者の優に5倍は引き離されている。
それどころか香料諸島の東隣を大きく占めるニューギニア島に至っては、ジェームズ・クックが18世紀に確認するまでオセアニア大陸と地続きと考えるのが常識だった。まだ南極大陸が伝説上の存在に過ぎなかった当時のヨーロッパ社会において、世界で5番目に大きな大陸と世界で2番目に大きなその島は“現実的に”一つの陸地だったのだ。当時の航海者から見ても、両者の位置はそれほどに近しいものだった。
■まったいらな世界
‘大航海時代Online’が描く世界と現実の世界とのこのような地理的な差異は他にも多々あるが、もっともわかりやすい違いを一つ挙げるならそれは何といっても、このゲームでは世界が“まったいら”であるということだ。
ゲームの序盤で近海を往き来しているうちはあまり気にならないし、ひとたび慣れてしまえばどうということもないけれど、ゲームを始めて地中海や北海を出て大西洋を渡る頃にはおそらく、地理や歴史に関心のあるプレイヤーの多くがこのことに一度は違和感を覚えた経験があるはずだ。なぜならメルカトール式に2次元平面へと投影されたこのゲーム内世界の在りようは、その投影による南北端の“間伸び”を是正すべくさらなる地図のデフォルメが行われた結果として、球状に展開した現実の大航海時代における“世界”との間に局所的にはかなり壮大な食い違いを見せているからだ。
たとえば現在の歴史では、一部のヴァイキングはヨーロッパ中世のかなり早い段階で氷床づたいに北米大陸へと渡航したことが検証され、ネイティヴ・アメリカンのDNA鑑定によってもこの説が裏付けられて久しいが、‘大航海時代Online’の世界ではスコットランド北方のシェトランド諸島からアメリカ大陸北東端への距離が開きすぎて実現性に欠けてしまう。
また投影図のマジックによって、本来の直線航路が‘大航海時代Online’の世界では曲線航路へと歪められることになる。地球儀の球面上に糸を張ればわかりやすいが、たとえば今回の世界周航イベントよろしくマゼラン海峡を出て真西方向へ一直線に進むと、現実にはメラネシアより手前で赤道を越えることになる。逆にゲーム内での周航ルートを実際にたどるなら南方向へ微細に舵を切り続ける必要があり、もしニュージーランドへ一直線に向かおうと思ったら今度は無駄に南極圏を突っ切ることになる。零下20度を超え、ちょっと寒い。
ただこうした食い違いで目につくのはむしろそれらに対して施された工夫のほうで、一例を挙げれば緯度の高いエリアにあっては南北方向の距離が東西方向の距離に比べて意図的に著しく短縮されている。こうすることで、高緯度圏では世界そのものの間伸びによりどこへ向かうにもやたらと時間をとられる事態から、とりあえず半分は解放されることになる。
このおかげでアフリカ大陸や南米大陸の南半分は不格好に矮小化されており、オセアニア大陸に至ってはぺしゃんこに押しつぶされた形となってしまったが、よくよく考えてみればたかがゲームの舞台設定でここまで現実世界との整合性をとることへの苦心を迫られるケースというのも面白い。カカドゥの港を出たあと自船は引き続きオセアニア大陸の沿岸探索を続けたが、北岸を横切るのに比べて西岸を縦断するのはやけに早かった。
■南極大陸は実在するか
その後はオセアニア大陸の西岸から南岸へとまわる。視野の左半分にはつねに、上陸地点の一つすらない海岸線がどこまでも続いていく。右方向には水平線のほか何もない。減量上限、砲室最大の改造を施した軍用船に戦闘要員を満載させてこんな僻地を航行している自分が何だか、とてもかわいそうに思えてくる。そしてそろそろ生まれてきた理由でも見つめなおそうかと思えてきた矢先、前方にタスマニア島の陸影が姿を現した。良かった。南側から島を周回していくと、東岸に新港発見。たちまち入港。
ところで先に述べた球体の現実世界と平面のゲーム内世界との地理的な食い違いを是正する工夫によっては、絶対に乗り越えられない壁が一つある。そう、南極大陸の存在だ。
しばしば「地理的発見の時代」とも言い換えられる現実の大航海時代にあっても、南極大陸の存在は最後まで神秘であり続けた。すこし皮肉な話だがこの時代の終わり、それまで伝説上の存在だった南方大陸の実在を最終的に否定したのはかのキャプテン・クックそのひとだった。1773年クックは現在把握されている人類史上初めて南極圏へ突入、南緯71度10分にまで到達、凍てつくその世界にはもはや何もないことを“発見”した。
けれども彼がまぎれもなく大航海時代の英雄の一人である以上、‘大航海時代Online’の世界にもいつか南極探検シナリオの実装される日が来ないとも限らない。というより将来的にはぜひとも期待したい。ただこの大陸の地図的な整合性についてはこれはもう、現状のシステムでは諦めるしかないものがある。どこまでも、でかい。以上。
画像はタスマニア島の新港ホバートにて。なんとなくシコを踏んでみた。しかしこの港集落のグラフィック、あたかも常夏の楽園を思わせる風だが同緯度で北半球に換算するとホバートは函館よりも北にある。へそ出しルックが正しいスタイルなのかはわからない。
―1523年嘉月嘉日 筆
実をいうと、オセアニア大陸に新港はない可能性も感じていた。地理的な拡張はいつも小出しなのが運営サイドの手法だし、世界周航へ出るより先にワンガヌイの存在を大投資戦によって告知され、そのワンガヌイで次の寄港地はマニラとされたから、余計に望み薄と思えた面も強い。
■トレス海峡雑感
それだけにオセアニア大陸の東岸沖を北上し、北端のトレス海峡を通過してのちカカドゥの港が視認されたときなどは、まさしく“発見”の気分を味わえて楽しかった。これぞ探検的航海の醍醐味という感じだったが、と同時に‘大航海時代online’の世界では今回の拡張パックでこの大陸の位置修正が特に為されなかったことも発見(確認)し、こちらは少し微妙な気がしないでもない。
たとえばジャカルタやスラバヤ、ディリなどのある小スンダ列島とオセアニア大陸は現実には小海を挟み隣接していて、ディリからカカドゥまでの航行距離は実のところディリから香料諸島までのそれと大差ない。ゲーム内では前者が後者の優に5倍は引き離されている。
それどころか香料諸島の東隣を大きく占めるニューギニア島に至っては、ジェームズ・クックが18世紀に確認するまでオセアニア大陸と地続きと考えるのが常識だった。まだ南極大陸が伝説上の存在に過ぎなかった当時のヨーロッパ社会において、世界で5番目に大きな大陸と世界で2番目に大きなその島は“現実的に”一つの陸地だったのだ。当時の航海者から見ても、両者の位置はそれほどに近しいものだった。
■まったいらな世界
‘大航海時代Online’が描く世界と現実の世界とのこのような地理的な差異は他にも多々あるが、もっともわかりやすい違いを一つ挙げるならそれは何といっても、このゲームでは世界が“まったいら”であるということだ。
ゲームの序盤で近海を往き来しているうちはあまり気にならないし、ひとたび慣れてしまえばどうということもないけれど、ゲームを始めて地中海や北海を出て大西洋を渡る頃にはおそらく、地理や歴史に関心のあるプレイヤーの多くがこのことに一度は違和感を覚えた経験があるはずだ。なぜならメルカトール式に2次元平面へと投影されたこのゲーム内世界の在りようは、その投影による南北端の“間伸び”を是正すべくさらなる地図のデフォルメが行われた結果として、球状に展開した現実の大航海時代における“世界”との間に局所的にはかなり壮大な食い違いを見せているからだ。
たとえば現在の歴史では、一部のヴァイキングはヨーロッパ中世のかなり早い段階で氷床づたいに北米大陸へと渡航したことが検証され、ネイティヴ・アメリカンのDNA鑑定によってもこの説が裏付けられて久しいが、‘大航海時代Online’の世界ではスコットランド北方のシェトランド諸島からアメリカ大陸北東端への距離が開きすぎて実現性に欠けてしまう。
また投影図のマジックによって、本来の直線航路が‘大航海時代Online’の世界では曲線航路へと歪められることになる。地球儀の球面上に糸を張ればわかりやすいが、たとえば今回の世界周航イベントよろしくマゼラン海峡を出て真西方向へ一直線に進むと、現実にはメラネシアより手前で赤道を越えることになる。逆にゲーム内での周航ルートを実際にたどるなら南方向へ微細に舵を切り続ける必要があり、もしニュージーランドへ一直線に向かおうと思ったら今度は無駄に南極圏を突っ切ることになる。零下20度を超え、ちょっと寒い。
ただこうした食い違いで目につくのはむしろそれらに対して施された工夫のほうで、一例を挙げれば緯度の高いエリアにあっては南北方向の距離が東西方向の距離に比べて意図的に著しく短縮されている。こうすることで、高緯度圏では世界そのものの間伸びによりどこへ向かうにもやたらと時間をとられる事態から、とりあえず半分は解放されることになる。
このおかげでアフリカ大陸や南米大陸の南半分は不格好に矮小化されており、オセアニア大陸に至ってはぺしゃんこに押しつぶされた形となってしまったが、よくよく考えてみればたかがゲームの舞台設定でここまで現実世界との整合性をとることへの苦心を迫られるケースというのも面白い。カカドゥの港を出たあと自船は引き続きオセアニア大陸の沿岸探索を続けたが、北岸を横切るのに比べて西岸を縦断するのはやけに早かった。
■南極大陸は実在するか
その後はオセアニア大陸の西岸から南岸へとまわる。視野の左半分にはつねに、上陸地点の一つすらない海岸線がどこまでも続いていく。右方向には水平線のほか何もない。減量上限、砲室最大の改造を施した軍用船に戦闘要員を満載させてこんな僻地を航行している自分が何だか、とてもかわいそうに思えてくる。そしてそろそろ生まれてきた理由でも見つめなおそうかと思えてきた矢先、前方にタスマニア島の陸影が姿を現した。良かった。南側から島を周回していくと、東岸に新港発見。たちまち入港。
ところで先に述べた球体の現実世界と平面のゲーム内世界との地理的な食い違いを是正する工夫によっては、絶対に乗り越えられない壁が一つある。そう、南極大陸の存在だ。
しばしば「地理的発見の時代」とも言い換えられる現実の大航海時代にあっても、南極大陸の存在は最後まで神秘であり続けた。すこし皮肉な話だがこの時代の終わり、それまで伝説上の存在だった南方大陸の実在を最終的に否定したのはかのキャプテン・クックそのひとだった。1773年クックは現在把握されている人類史上初めて南極圏へ突入、南緯71度10分にまで到達、凍てつくその世界にはもはや何もないことを“発見”した。
けれども彼がまぎれもなく大航海時代の英雄の一人である以上、‘大航海時代Online’の世界にもいつか南極探検シナリオの実装される日が来ないとも限らない。というより将来的にはぜひとも期待したい。ただこの大陸の地図的な整合性についてはこれはもう、現状のシステムでは諦めるしかないものがある。どこまでも、でかい。以上。
画像はタスマニア島の新港ホバートにて。なんとなくシコを踏んでみた。しかしこの港集落のグラフィック、あたかも常夏の楽園を思わせる風だが同緯度で北半球に換算するとホバートは函館よりも北にある。へそ出しルックが正しいスタイルなのかはわからない。
―1523年嘉月嘉日 筆
コメント