湖の底の月
幼い頃に初めてもらったトランプカードには
スヌーピーの絵柄がついていて、
わたしはそのトランプにかなりの愛着をもっていた。
その後ほかの図柄のセットをもらっても、わたしにとっての
トランプとはまず第一に、眠たげなスヌーピーのそれだった。

自分で捨てるはずはないからたぶん、いまもどこかで
眠たげな顔をそのままに、長くしまわれたままなのに違いない。
けれど‘大航海時代Online’をプレイしていて、
もう10年以上は目にしていないそのスヌーピーのカードの
記憶がよみがえるとは思わなかった。
モノや特別なルールを介した“ゲーム”という存在の先駆けが、
きっとわたしにとってはそのトランプカードだったということなのだろう。
 
 
どんなにシンプルなものでも、ゲームというものはおしなべて
それぞれに独自の感覚世界をもっている。
たとえば‘大航海時代Online’であれば、どんなに大きな港へ行っても
酒場は不思議と街に1軒ずつしかなくて、
乗ってきた船とは別の自分の船にもなぜか
世界中どこの港でも乗り換えることができてしまう。

それらは本来であればおかしなことだけど、
そういう無数のおかしさをゲームのルールもしくは
暗黙の了解として他のプレイヤーと共有することで、
そこにそのゲーム固有の感覚世界が立ちあがってくることになる。

“魚介のピザ”は単に海の幸をのせただけのピザではないのである。
一度に何十枚でも食べられる魔法のピザなのだ。
“外科医術”もそこらへんの外科手術とはちょいと違う。
他の船に乗る水夫のケガまで一瞬でちちんぷいぷいなのである。
“出航所役人”はどの国の言葉もペラペラで、
“交易所の店主”はその街の八百屋や魚卸しや雑貨店や米問屋の象徴としてそこにいる。
ただの小役人やどこにでもいる店のおやじのように見えても、じつはすごい。

それはたぶんトランプくらいにシンプルなものでも
まったく同じことが言えて、
キングはただの13では決してなくて
それなりの威厳をしっかりとそなえているし、
クイーンはどこか艶やかで、
ジャックはいつも上官に忠実で、
ジョーカーはどこまでもよこしまだ。

けれども幼い頃トランプというものに
生まれて初めて接したとき、それはやはり
単なる小さな紙の束でしかなかったのだろうとおもう。
これがエースで他にはない強さを秘めていて、
これはジョーカーでときにものすごく
やっかいな存在なのだということを
一つ一つ時間をかけて見いだしていくことで、
そこかしこに違和感を覚えつつもやがてはその世界に馴染んでいく。

そうしてゆっくりと慣らせてゆくことで、
たとえば“マグロのオリーブステーキ”が
バルシャ一隻よりも高いことをもう不思議に思わなくなってくる。
地球の裏側にいる友人と会話できるのが
まったく当然のことに思えてくる。

だから余計に、なのかもしれない。
一度馴染んだものたちから何かが欠けてしまうときなどは、
それがなくてはそのゲームをやる楽しみが変わってしまうというほどに、
とても切なく、とても寂しい。

‘大航海時代Online’であればわたしの場合、
長く乗り慣れた愛船を所持枠の問題から手放さなくては
いけなくなったときなどに、そういう痛みをよく感じる。
けれどもその寂しさがとりわけ大きいのはやはり、
よく一緒に遊んでいたプレイヤーからある日突然
ゲーム休止の知らせが届いたときだと思う。
そういうときはその瞬間に‘大航海時代Online’の
ゲーム内世界すべての色合いが、いつも少し変わってしまう。
 
 
ここまで書いてきて、スヌーピーの絵柄のついたトランプで
なぜ遊ばなくなったのかを、唐突に思い出してしまった。

ながく使ううちに、カードごとに傷や折れ目がついてしまってもなお、
子供のわたしはそのトランプを使いたがっていたし、
プラスチックのケースが割れてもセロハンテープで補修して、
新品のほかのセットよりも愛用したのを覚えている。

だからそのスヌーピーのトランプの、
クローバーのジャックをなくしてしまったときは本当に、悲しかった。
それから数週間は思い出すたび
ノートのあいだに挟まってないかとか、
洗濯に出した服のポケットや家具の下にすべり込んでいないかとか
いつも気にかけていたように思う。
いま思えばそれはもう安物のカード1枚ではなくて、
わたしの遊びの世界全体にとってかけがえのない存在だったのだ。

‘大航海時代Online’を始めて間もない頃に知り合って、
ジェノヴァで海事レベルを上げる艦隊を何度か一緒にするうちに、
フレンド登録を交わしたひとがいる。
その後一緒に遊ぶ機会はほとんどなかったのだけれど、不思議なひとで
何かのイベントでどんなに人混みに囲まれたさなかでも、
わたしを見つけると必ず“うなずく”の仕草をして去っていく。

幾度か繰り返されるうちに、わたしのほうも何やら意地になってきて、
大海戦のように無数の船が行き交う洋上でも、
彼女の乗る船に“うなずく”ことだけは
多少の犠牲を強いてでも敢行するようになった。
“うなずく”だけで、いつも会話は一切しないのだ。
いつのまにかそれが、そのひととの付き合いの流儀になっていた。

けれどあるとき街なかで会った際、珍しく彼女からTellが飛んできた。
「うちの商会だれもINしなくなっちゃった」
すこし話すと、それでも戻ってくるかもしれないメンバーのために、
商館維持の条件をクリアするのがいつも大変だと言ってくる。
それを聞いたとき、わたしは即座に不安になった。
だから自分の商会に誘ったのだけれど
「わたしは一人でもだいじょうぶだから、ありがとう」
と彼女は言って、いつも通りウンとうなずいてその場をあとにした。

それからしばらくして、フレンドリストの彼女の名前が
もうずいぶんIN表示になっていないことに気がついた。
さらに時間がたって何となく、ああもうINしないんだなぁと
思えてしまったときはなんだか、本当にどうしようもなくなって、
無性に切なくなって仕方なかった。

もう半年以上みていないのだけれど、
前に一度このブログを読んでくれていると聞いた気がします。
いまは課金していないキャラでもネットカフェからINできるそうなので、
もし気が向いたら一度、多少は変わったゲーム内の様子を
見に来てくれたら嬉しいです。
ちびっこキャラどうしでウンウンとうなずき合う光景がわたしにとって、
もしかしたら幼い日のクローバーのジャック以上の存在であることに、
あなたがいなくなってからようやく気づいた次第です。
 
 

コメント

nophoto
ニックネーム無し
2007年6月8日0:49

全米が泣いた

nophoto
ゆとり世代代表
2007年6月8日0:54

長すぎるので5行でまとめてくさちぃ>w<;;;;;

nophoto
loji
2007年6月8日1:02

昔書いた手紙を思い出しました。

goodbye
goodbye
2007年6月8日1:05

> ニックネーム無しさん:

欧米化っ!

> ゆとり世代代表さん:

教祖・・・

> lojiさん:

キャー>w<

nophoto
やー
2007年6月8日1:06

初期の知り合いが居なくなるのは寂しいものですね。
私も今の商会を紹介してくれた人が辞めた時はそんな感じでした。

ということで一行以上書いたよ!

goodbye
goodbye
2007年6月8日1:17

3行ありがとんww

nophoto
ちょこ。
2007年6月8日1:26

恋ですネ(*^ー゜)b

nophoto
教祖
2007年6月8日2:03

そもそもなぜヒトは思い出とともに生き、
時としてそれをしまいこんだ棚から引っ張り出してきてまで
感傷に浸ろうとするのか。

それは記憶こそがその人が生きた証であり、
自らにとって現在の存在を形作る唯一のものと成り得るからである。

1万年と2千年前から愛してるとか
そんな馬鹿げたあいまいな記憶すらも、
そのヒトを形作るために無くてはならないパーツ。
となれば、わずか10年ほど前のトランプの記憶は
あなたの非常に大きな部分を形作る重要なパーツであるのがお分かりになると思います。

そして、記憶の中で無くなったクローバーのジャックとリンクする消えた友人。
この現象はあなたに、いつでも手に入るとか
いつでも会えるとか安易に思っているものは、
その機会を失って初めて本当の価値に気づくという、
人生のとても大切な教訓を教えてくれてます。

これで私が何を言いたいか、お分かりになりましたか?

あまり長くなっても失礼ですので、わかりやすくハッキリとお教えします。
これは”お布施なさい”ということを暗に示していると思いませんか?

ログインすればいつでも会える友人達。
普段のたわいの無い会話。
その一つ一つが、実はこれからのあなたの重要なパーツとなっていっているのです。

ですが、この”当然のこと”がいつまでも続くものではないというのを
あなたは経験で学んでいるはずです。

ならば今!!!
今こそ普段お世話になっている方に、
できる限りの恩返し(お布施)をするべきではないでしょうか?

長々と述べましたが、
日本には以上と同様のことを端的に表した名言中の名言があります。
これをあなたに与え、筆をおかせていただきます。



「親孝行、したいときには親は無し。」

nophoto
ニックネーム無し
2007年6月8日8:54

長文書いていいこと書いてる気になってんの?w
特にコメント欄で頑張ってる教祖とか言う人

goodbye
goodbye
2007年6月8日13:04

> ちょこ。さん:

そうか、恋だったのかっ (*’-’*)

> 教祖:

テンションが不思議ちゃんだったので何かのパロディかと思ったけど出典不明w でもお布施のために交易するヒマあったら親孝行せいというのは感動。さすが教祖ですヾ(≧∇≦)/

っても一度読んだら、なんか駅前で配ってたり郵便受けに入ってたりする怪しい布教本のパロディに思えてきた( ̄▽ ̄)ノ レアな長文書き込み謝謝w

> ニックネーム無しさん:

(゜ρ゜)

 

nophoto
ぽるとがるウインナー
2007年6月8日19:09

グッバイさん お久しぶりです。

本文中の「彼女」よりも疎遠な感じではありますが
それでもグッバイさんの存在は、フレ登録をしていただいた
あの瞬間から僕の大航海の大事な一部です。
これからもヨロシクどうぞ〜。

PS・いつも拝見させていただいておりますが
ちょっとコメントさせていただきたい内容でしたので。
駄文、失礼をば。

nophoto
専用紙を買った英国人
2007年6月9日1:22

さよならだけが人生だ という詩もありますね。
誰もが持っていてほしい感傷を、文章にしていただいてありがとう。

goodbye
goodbye
2007年6月9日15:24

> ぽるとがるウインナーさん:

コメント感謝^^ おひさしぶりです〜
いま疎遠ぎみになってるような古くからのフレってポルトガルのかたが一番多いくらいだし、イスパだけどいつもウインナーを自称するフレもいたりするので誰だろう〜ってしばらく考えちゃいましたw 今後ともよろしくです〜^^

> 専用紙を買った英国人さん:

さよならだけが人生だ、うまいこと言われちゃったなぁ〜>w<
こちらこそコメントありがとでした^^

 

goodbye
goodbye
2007年6月9日15:59

> 教祖ブログから飛んできたみなさまへ

はじめましてっ!! まぁ世の中こんなブログもあったりします (’-’*)

わたしとしては記事ごとの主張やメッセージ性などよりも、読んでいる時間そのものをお楽しみいただけるかたに向けて書いてます。短くまとめる志向性が働かないのもそのためです。

なのでネットサーフィンのようなモードでみるとたしかに毎回長すぎなんですが、そこはできればスイッチをすこし切り替えて、温かい飲み物などかたわらにゆっくりお付き合いいただければ幸いです。

まぁ、いつも長いですよね^^; 

nophoto
スピア
2007年6月9日20:14

初めまして〜、Z鯖で遊んでいるスピアと言います

自分も読んでて感傷に浸っちゃったr(^ω^*)
自分にはこのゲームがはじめてのネトゲで、右も左もわからなく入った商会。。。ここにいた人たちに、何をしたらいいのかとか、『w』がどういう意味なのかとか、今思えば恥ずかしい質問をしていました。でも、その人たちはもうこの世界にはいません。なんだかそれを思い出しちゃって、うれしいような寂しいような・・・ねっ

どうもありがとうございました!

P.S.自分もプレイ日記をつけているのですが、よろしければリンクさせてください!
URL : http://spear55.blog79.fc2.com/

ひな
ひな
2007年6月10日0:52

うーん♪解かるよ
あたしのフレリストの6割はいつも灰色です
海賊を始めてから フレ登録することが無くなり
減っていく一方です・・・

goodbye
goodbye
2007年6月10日19:15

> スピアさん:
『w』の意味がわからないって懐かしいなぁw 実はわたしもそうだったんですよw いまじゃこのように使いまくりですけど^^; リンク&コメントありがとでした〜^^

> ひなさん:

なる〜 新しい登録をしなくなってたら、それこそ灰色がどんどん増えてくばかりだねぇ>< 

nophoto
2007年6月26日20:16

一時期行動をともにしていたフレが引退するということを聞き、goobyeさんのBLOGの記事を思い出しコメントさせて頂きました。
彼女は私にとって「Air Supply」の名曲のような人でした。
美化かもしれないですけど。
私が一時でもそういう存在だったのかって考えると心苦しくもなったり。

goodbye
goodbye
2007年6月29日17:57

書き込み感謝です^^ Air Supplyってどんな曲だっけと思っていくつかYou Tubeで聞いてみたんですが、このグループでしたか。子供のころから自然に耳に流れ込んできていたような曲ばかりですねぇ。歌詞聴いてても、英語なんて分かるはずなかった子供の頃にもこの曲のいわんとしてることがかなり正確に伝わってきてたことが分かりました。まさにこういうのを名曲って言うんでしょうね。ご教示感謝。

この記事、実はトランプのことを書き出したときはこんな風になる予定じゃなかったんですよね。頭で考えてる通りではなく、どうなるかわからないほうへ書き進めたことがいろんなかたから反応をいただけている結果につながったのかもしれません。

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