風の鳴る
マニラの水上集落はすこし独特な形になっていて、
出航所から伸びる通路を樹の幹として、
左右へ枝が分かれるように種々の施設への桟橋が伸びている。
小さな桟橋の一つを渡ると、史実でマニラを‘発見’した
ロペス・デ・レガスピと話せたりもする。

樹の幹に当たるその通路は全体が右方向へゆるやかに湾曲しているのだけれど、
奥へ奥へと進むとやがて内陸への門につき当たる。

その門の向こうへ行かないことにはたぶん、
本当の意味でこの島、ルソン島に‘上陸’したとはちょっと言えない。
なぜならここでは港湾施設そのものがすべて水上にあるからで、
きっと門の向こうにはこの島の自然や人々の暮らす光景が
より豊かに広がっているからだ。
けれどもいまのところ、
プレイヤーがその門をくぐることは‘まだ’できない。

‘大航海時代Online’にはこうした、まだ通れない門、まだ開かない扉、
まだ入れない通り等々が無数にあって、
たぶんその多くはこれからもずっと開くことがなく、
だからプレイヤーはみなその向こうに踏み入ることがないままやがて、
このゲーム内世界をあとにする日をそれぞれに迎えるのだろうとおもう。

けれどそれでもこうした門や扉がたくさんあることを、
わたしはひそかに歓迎していたりする。
港町をかこう柵や壁の向こう側へと分け入ることはできなくても、
そのこちら側から見渡すことができる向こうの世界には
その土地土地の家屋や草木、家畜や象や場合によってはシマウマなんかが
ちゃんと配置されていて、それらをぼんやり眺めることで、
そこには自分が歩ける町並みと地続きの空間が
門や扉を通じてもっと大きなスケールで広がっていることを
きちんと視点を動かしながら確認できる。予感できる。
このことの意味はおそらく、ただの見た目よりもずっと深い。
 
 
マニラの水上集落をつらぬく通路の一番奥、
内陸へと続く門の手前には、
プレイヤーがこの島の土を踏みしめることのできる
スペースがすこしだけあって、
この土地の色鮮やかな服を着たこどもがふたり立っている。
男の子と女の子がひとりずつ。
仲良し同士のともだちか、あるいは姉弟なのかもしれない。

遠く異国の地からやってきたわたしに向かい、男の子が尋ねてくる。

「ねえねえ、どこから来たの?」

すこし落ち着いた感じの女の子がぽつりとつぶやく。

「よく北の方から大きな船がくるの。
 珍しいものをたくさん積んでるんだよ」

実際にこの港を出航して北へ向かうと、
いまは数日もしないうちに
‘世界の果て’へと行き着いてしまうのだけれど。
けれどもしかしたらそうした事実のあるなしよりずっと、
こうしたセリフを話すこどもたち、大人たちがいることが
このゲームにとってはとても
大切なことなんじゃないかとわたしはおもう。

世界の果てのさらにむこう、
大なる船をあやつる人々の物影あり。

自船に日誌をつける船乗りがもしいたら、
この日の項はそう書き付けられるにちがいない。

耳を澄ませる。
耳奥より、かつて見たことのない構造をもつ
巨大な船舶が群れをなして波を割り、
未知の帆綱をはためかせる音が聞こえてくる。

 

コメント

goodbye
goodbye
2007年5月18日11:00

自己レスで補注です:

ひさびさの更新になります。goodbyeは町なかで放置されていることが多いのですが、その間にブログ読んでるよ〜といったsayやtellをいただいたり、エモをもらっていることがたまにあります。なにぶん魂が抜けているためその場で返せないのはいけませんが、あとでみて“お〜”と喜んでたりします。この場を借りて(?)、ありがとうです^^

ほぼ1ヶ月更新が止まっていたこの間も変わらずこうしたシンプルなメッセージをゲーム内でいただいていたのは、むしろ更新が止まってしまったからかな〜 とも^^; そうなった事情は諸々あったのだけど、まぁともあれブログ自体はこれまで通りのんきに続けますので、のんきにお付き合いいただければ嬉しいです。

あ、画像の船は空中を浮かんでるんじゃなくて、ちゃんと水に浮かんでます。この透明度はすっごい。

nophoto
リアルレッド
2007年5月31日17:17

通りすがりです^^
書かれる文章、世界観の素晴らしさに感動です。
こういう視点でプレイできるのはいいですねー

goodbye
goodbye
2007年6月3日18:46

おお〜 いただいた書き込みいま気づきました><
お褒めの言葉ありがとうです^^ 

この記事シリーズを書くうえでは、できるだけこうした視点でゲームを見ようと心がけてます。ゲームシステムに慣れてしまうといろいろ頭の中で記号化しちゃって、なかなか難しいことなんですよね。

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